2003年6月       
                                         伊藤 公象

 ダイヤモンドや真珠などの宝石類が放つあの美しく妖しいまでの魅惑的な何かを、有機性と襞(ひだ)の概念に重ね合わせる。その密度の高まりから〈ジュエル・ボックス〉の制作を続けている。 「・・・美はぽかんと見とれさせ、思考力を一時的に止めてしまうもの。しかし同時に‘美しいということは何か’という問いは過去の先例との比較を模索させ、創作への新しい意欲を駆り立て、概念を超越し、物事の関連づけなどを超越させようとする。・・・」
 エレーン・スキャーリー著『 美の実相について 』 Duckbacks 2001 からの引用に継いで、1989年に新潟小針浜海岸で行ったアート・イベント〈雰囲気・化粧〉(海の砂を焼成したピンク色の砂を波打ち際に撒き、自然のもとの砂との入り交じる刻々と変化するエロス的な光景を演出した)にふれ、「伊藤は決して見ることのない世界への扉を一時的に開放し、彼の詩的な変容物はそれが永久に消えてなくなる前の、短く、移り変わる、つかの間の休息を生きている。」と、私の個展のカタログに記したのは、テート・ギャラリーのセント・アイヴス美術館長スーザン・ダニエル=マッケロイ女史である。そして2002年7月から2003年1月まで開かれた私の個展のタイトルに『 VIRUS −宇宙の実在を超えて− 』と名付けた。想えばあの〈雰囲気・化粧〉はウイルスあるいはジュエルの襞そのものではなかったか。
  セント・アイヴスでは、美術館の正面に見える身近な海浜の光景をワイドに写 す幅15メートルの彎曲したガラスケースに、〈木の肉・土の刃〉と〈多軟面 体〉約2000ピースを混ぜ合わせて〈海の襞〉を、抜けるような青空にカモメが舞う館の中心にある中庭の作品は〈地の襞〉としたが、ともに〈ジュエル・ボックス〉と呼ぶものだった。  
  そして、‘概念を超越する’表現の模索の旅でもあったセント・アイヴスから帰国してすぐ、石川県羽咋市原山舎『野積SIO 2002』展を、水戸芸術館現代美術ギャラリーでの『12人の挑戦-大観から日比野まで、ヴェネチア・ビエンナーレ 1952−2001 』展に〈ジュエル・ボックス〉の新作を発表、イギリスと日本とその襞は交差した。
  そして今回の個展である。富山の前回の個展は1996年晩秋だった。富山県立近代美術館の企画〈土の地平・伊藤公象〉展では、直径12メートルの円内に6800ピースの陶単体を集合させた〈木の肉・土の刃〉を設置したが、それを美術館2階の円形の手摺ごしに見下ろすと、一瞬、何か宇宙に棲息する生き物の巨大な眼球が不思議な波長の襞を発信し続けるように見えたのを思い起こす。
  『土の地平』展から7年近く、そのような制作の経緯を踏まえて、今回は、焼凍土の大小の個体(1260℃と1290℃で2度、長石などを用いて高温焼成し、さらにラスター釉などを低温で焼きつけた)による新作である。また、新しい試みとして制作した焼凍土とガラスを組み合わせた作品は、山梨県の河口湖でガラスと陶芸の工房G+Cアートを営む上野 司、蕗子(旧姓正野蕗子)夫妻の協力を得た。


  MILESTONE ART WORKS の〈ジュエル・ボックス〉から、はたしてどのような襞が増殖、拡散するのか、それこそ‘ぽかんと見とれさせ、思考力を一時的に止めてしまう’美の本質とも思えるVIRUSにどこまで迫ることができたか、まだまだ大きな課題が残されているようだ。



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